花村ユリカと私の関係
花村ユリカと私の関係 味噌汁編 朝の光が、部屋に静かに差し込んでいた。 玄関で靴を履きながら、私は時計を見る。 そろそろ出る時間だ。 「ちょっと待って」 背中越しに、ユリカの声。 振り向くと、キッチンで鍋の湯気が立っている。 「味噌汁くらい、飲んでいきなさいよ」 少しだけ呆れたような口調。 でも、どこかやわらかい。 「時間ないんだけど」 「あるでしょ、3分くらい」 言い切られて、私は小さく息をつく。 靴を脱いで、テーブルに戻った。 目の前に置かれた味噌汁。 湯気と一緒に、出汁の香りが広がる。 一口、すする。 「ああ……」 自然に、声が漏れた。 「……どう?」 「うまい」 短く答えると、ユリカは少しだけ目を細めた。 「でしょ」 それだけ言って、またキッチンへ向き直る。 静かな朝。 味噌汁の香りと、やわらかい光。 全部飲み干して、立ち上がる。 「ごちそうさま」 「はいはい」 軽く手を振るユリカ。 玄関に向かいながら、ふと思う。 ――こういう時間があるから、外に出られる。 ドアの前で振り返る。 「行ってくる」 「いってらっしゃい」 その一言は、少しだけやわらかかった。 花村ユリカと私の関係 コーヒー編 夕方の光が、部屋をやわらかく染めていた。 窓の外は、少しだけオレンジ色に傾いている。 私は椅子に座り、ぼんやりと外を眺めていた。 コト、と小さな音。 振り向くと、ユリカがマグカップをテーブルに置いている。 「はい」 それだけ。 黒いコーヒー。湯気が静かに立っている。 「……どうしたの」 「別に」 短い返事。 でも、ほんの少しだけ視線を外している。 私はマグカップを手に取る。 一口、飲む。 苦味と香りが、ゆっくり広がる。 「ブラックか」 「いつもそうでしょ」 「そうだけど」 少しだけ、笑う。 ユリカは向かいに座り、自分のカップに口をつけた。 言葉は、特にない。 でも、静かな時間がちゃんとある。 外の光が、少しずつ落ちていく。 「……落ち着くな」 ふと、こぼれる。 「でしょ」 小さく返ってくる声。 それだけで、十分だった。 コーヒーを飲みながら、ただ時間が過ぎていく。 ――こういう時間が、いい。 何も決めなくていい、何も急がなくていい。 ただ、ここにいるだけでいい。 カップを置く。 「ありがとう」 「どういたしまして」 ユリカは少しだけ微笑んだ。 その表情は、夕方の光の中で、やわらかく見えた。 花村ユリカと私の関係 カレー編 部屋の中に、スパイスの香りが広がっていた。 鍋の中で、ゆっくりと煮込まれる音。 その匂いだけで、今日はもう決まったなと思う。 「カレーか」 キッチンをのぞくと、ユリカが淡々とかき混ぜている。 「見ればわかるでしょ」 振り向きもせずに返す。 「いい匂いだな」 「でしょ」 少しだけ、間。 「味見する?」 振り返って、スプーンを差し出してくる。 私は少しだけ身を乗り出して、それを受ける。 一口。 「ああ……」 思わず、息が漏れる。 「どう?」 「うまいな、これ」 「ちゃんと作ってるからね」 少しだけ、得意そうな顔。 テーブルに皿が並ぶ。 白いご飯の上に、たっぷりとかかったカレー。 向かい合って座る。 「いただきます」 「はい」 スプーンを入れる音だけが、しばらく続く。 時々、目が合う。 でも、特に何も言わない。 それでいい。 「……なんか、落ち着くな」 ふと、口に出る。 「カレーで?」 「いや、こういうの」 少しだけ考えてから言う。 ユリカは、スプーンを止めてこちらを見る。 「……でしょ」 短く、それだけ。 また食べ始める。 窓の外は、すっかり夜になっていた。 部屋の中は、カレーの香りと、やわらかい明かり。 食べ終わって、軽く息をつく。 「ごちそうさま」 「おそまつさま」 皿を下げながら、ユリカが小さく言う。 ――こういう時間が、続けばいいと思う。 特別じゃない。 でも、ちゃんと満たされる時間。 それが、ここにはある。 花村ユリカと私の関係 夜の帰宅編 ドアの鍵を回す音が、静かな廊下に響く。 一日の終わり。 少しだけ重い体のまま、ドアを開ける。 部屋の中は、やわらかい明かりがついていた。 「……ただいま」 靴を脱ぎながら、声をかける。 少し間があって、奥から返ってくる。 「おかえり」 その一言だけで、空気が少しだけ変わる。 リビングに入ると、ユリカがソファに座っていた。 手には本。ページをめくる音が、静かに響く。 「遅かったね」 視線は本のまま。 「まあな」 短く答えて、カバンを置く。 そのまま、ソファに腰を下ろす。 ふぅ、と息をつく。 何も言わない時間が、少し流れる。 「……疲れてる?」 不意に、声。 「ちょっとな」 正直に答える。 ユリカは本を閉じて、こちらを見る。 「ご飯、あるけど」 「あとでいい」 「そう」 それ以上は聞かない。 少しだけ距離をあけて、同じソファに座る。 ただ、それだけ。 テレビもついていない。 音はほとんどない。 でも、不思議と落ち着く。 「……帰ってきたなって感じする」 ぽつりと、こぼれる。 「でしょ」 やわらかい声。 そのまま、少しだけ肩の力が抜けていく。 外の世界で張っていたものが、ゆっくりほどける。 何かをしなくてもいい。 何かを話さなくてもいい。 ただ、ここにいればいい。 「……ありがとう」 小さく言う。 「なにが?」 少しだけ首をかしげるユリカ。 「なんでもない」 そう言うと、ユリカは少しだけ笑った。 「変なの」 その言葉も、どこかやさしい。 夜は、静かに深くなっていく。


戻る